やはり確固たる目標のある人間は強いのだろう。
 彼女にとってあのレベルの嫌がらせは雑音程度でしかなかった。
 その後も彼女の躍進は目覚ましく、担当している投資先は短期間で凄まじい成長を遂げていた。
 このまま順調に行けば、2~3年後にはエグジット(投資先企業の株を売却し、リターンを得ること)出来る案件もある。
 いやはや、最早俺が教えることは何もない。
 また余談だが、飛鳥に嫌がらせをしていた社員は彼女の活躍を横目に、早々に自分の可能性を諦め退職していった。

「彼女、凄まじいな……」
「へっ!? あ、はい。そうですね」

 俺がいつものようにデスクで仕事をしていると、経理部長が話しかけてきた。
 滅多に絡まない人だから思わず変な声を上げてしまった。

「彼女がウチの希望かもな……」
「はぁ……、そうですね」
「すまん、邪魔をした」

 そう言うと、経理部長は自分の業務スペースへ戻っていった。
 わざわざそれを言いに来たのか?

「経理部長、急にどうしたんすかね?」

 享保も不審に思ったらしい。

「さぁな」

 普段であれば気にも留めない些細な出来事だが、俺は何故かこの時の違和感をいつまでも拭いきることが出来なかった。
 そして、その違和感は後々顕在化されることになる。