「…レモンサワー2本だけ、でしたね」
「煙草、買わなかったの初めてすぎて、今ちょっとまだびっくりしてるんですけどおれ」
「煙草、やめたんですかね」
「彼女とか、できたのかもしんないすね。だとしたら良いことです、煙草は身体に悪いから」
「ですねぇ…」
───大切な人のためなら多少の無理さえも愛おしく感じるようにできてるらしいです
脳内では真夜中さんがつい数分前に言ったその言葉がまわっている。
"レモンサワー2本と86番の人"が、煙草を買わなかった原因が大切な人のためにしたことだったとしたら、とても素敵で、それから少しだけ羨ましいと思ったのだ。
────だから、
「真夜中さん」
「はい」
「ちょっと、頼まれごとしてくれませんか」
「ああ、まあ、出来る範囲なら」
「お礼に廃棄のパン、あげるんで」
「いやそれおれがあげたやつっすよ」
「ははは」
「いい性格してますよねミヨーさんって」
「真夜中さんも人のこと言えないですよ、知らんけど」
「ははは」
「笑ってごまかそうとしてます?」
多少の無理さえも愛おしく感じる瞬間を、私もこの目で見てみたかった。