「きっとその菩薩の人も、ミヨーさんと過ごす夜が好きだから毎日来てたんじゃないすかね。親の目を盗んできてたんすよね?ほら、親にバレたとか、試験前で時間が取れなくなったとか。考えられる可能性はいくらでもありますよ。まあ、稀に深刻な問題の時もあるかもですけど」
「……、」
「人は、大切な人のためなら多少の無理さえも愛おしく感じるようにできてるらしいです。だから、何が原因だったとしても、ミヨーさんは自分を責めたり、菩薩の人との生活スタイルに苦しむ必要はないと思います。知らんけど」
「知らんのですか」
「『知らんけど』って語尾に付けたらちょっと言葉の意味が緩むでしょ。しがない深夜バイターの言葉を信じ切ってほしくもないんで」
真夜中さんがはは、と笑ったところで、自動ドアが開いた。「らしゃいませー」とほぼ反射的に真夜中さんが言う。癖付いたものなのだろう。
癖になるほどここでバイトを続けていることを羨ましいと思うと同時に、綺が当たり前に来る夜が癖になっていた自分を思い出して、なるほど、とも思った。