「……夜が、長いんです」

「夜は長いもんですよ」

「でも楽しい時間はあっという間じゃないですか」

「…そっすね。あっという間です、確かに」

「半月前の記憶がもうないです」

「え?」



半月前、突然現れた綺と、私は流れるままに仲良くなった。夜を共に過ごし、たわいない話を沢山した。

トクベツな何かをしたわけではなく、ただ夜が過ぎるのをふたりで待つだけの時間は、日を追うごとに愛おしいものになった。



夜は長い方が良いと思っていた。太陽が隠れている間だけは、真面目に学校に行く高校生も、バイトに励むフリーターも、不登校の私も、皆平等になれるという認識をしているから。

けれど、そんな私の自論は関係なしに、綺と過ごす夜が私は好きだったのだ。


綺と出会う前の夜を、私はもう、思いだせずにいた。