「…おれは、最初から何も持ってないくせに社会から逃げたら自分には何もなくなるって、そんなことばっか考えて動けない。バイトじゃジジイに怒られて、うっせえなって心の中で思うだけ。大学も、…あ、おれ大学生なんすけど。夢の何もないまま、寝るために講義に出てる。彼女はいるけど、成り行きで付き合ったから好きとかあんま感じたことなくて」
「……そ、なんですね」
「おれはずっと中途半端なんすよね。逃げるか戦うかなのに、どっちにも当てはまってない気がしてる」
アイスをひと買ってシールを貼ってもらうだけの私にはきっと話してくれなかったこと。
同じことをこなす日々に、彼は辟易しているらしい。
言葉にしないと考えていることは分からない。
顔も整っているし背も高いから、きっと彼女がいて、大学もそこそこ楽しんでいる人だと勝手に思っていた。
そんな店員さんが、本当は私のことを認識していて、さらには羨ましいと思っているなんて、そんなこと1ミリも疑わなかった。