どこがどう、私に羨ましがられるポイントがあったのか、到底理解できなかった。「意味が分からないです」そう言えば、「おれも、あんまわかってないっす」と返された。


店内には、他の店員さんもお客さんもいない。私と目の前に店員さん、ふたり分の声が交差する、静かな空間。とても不思議な感覚だった。



「でも、お客さんは、立ち止まる勇気を持ってるから。自分の“無理”な範囲を自分でちゃんと感じて、逃げた。それってすごいことっすよ。世界はチャカチャカ進んでて、波に乗ることを強いられてる。立ち止まって休むことは、非難されるようなことじゃない」

「……、」

「おれは、その勇気すら、ないんで」




黒の双眸が私を捕らえる。店員さんは、自分を嘲笑うように息を吐いた。