「あ、あの」
「はい」
「た、…たのしそう、ですか、私」
袋の取っ手をぎゅうっと握り、震える声で問う。
店員さんは一瞬数秒の間を置いたあと、
「はい」
その二文字を、丁寧に紡いだ。
「おれ、人の顔覚えるの苦手で。常連のジジイ…あ、お客さんが来て、『煙草いつもの』とか言われてもわかんないんすよね。ほら、話し方が偉そうなリーマンのジジイ…じゃなくてお客さんってだいたい短気でしょ。だから『何番ですか』って聞いても『なんで覚えてねえんだよ』って。いやそらジジイ………お客さん、てめえの顔が薄いからだわって。マルボロもセブンスターもただのカタカナなんすよジジ……ジジイ この野郎」
「ついにジジイを言い直すのやめましたね」
「はは。まあ、そんなん実際には言いませんけど」
「おれ偉いんで」そう付け足して、店員さんが笑った。