恋がしたい。それは、卒業を控えた高校3年生の切実な願望なのだと思う。
制服でデートができるのも、過ちをお酒のせいにできないのも、高校生というブランドの枠にいるうちだけだ。
「杏未って、これまで彼氏とかいたことあるんだっけ」
「うぅーん……ひとりだけ」
杏未には2年生の時に付き合っていた人がいたみたいだ。好きだって言われて、優しそうな人だったから付き合うことになったけれど、半年ほどで別れてしまったらしい。
思い返せば、杏未とはこれまであまり恋愛の話をしてこなかった気がする。
それは1年生の時からだ。
マイやシホは誰がかっこいいとか誰を狙っているとか、そういう話をよくしていたけれど、杏未と私はふたりの話に頷くばかりで自分の話をするタイミングもなかった。