不思議な人だなと思った。変わっている、とも思った。だけど少し、面白そうな人だな、と思った。



「別に私、綺と話すことなんてないよ」

「聞いてくれるだけでいい。俺のどうでもいい話をさ」

「それ聞いて何になる?」

「夜が早く終わる」

「……夜は長い方がいいよ」

「じゃあわかった。夜って、寝るまでが夜だから、寝たら朝が来る、寝なかったらずっと夜。つまり寝なければ明日も明後日も夜。おけ?」

「全然おけじゃない」

「ってのはただの屁理屈。生憎明日は学校に行かなきゃなんないから、一般的な朝が来る前には帰ることにする」



学校、と当たり前に出てきたワードに 分かりやすく目を逸らす。

一般的な朝は、私にはもう一年以上来ていない。そんな私が、当たり前をこなす綺と話せることなんてあるのか。




「蘭」



綺が私の名前を呼ぶ。心做しか丁寧に紡がれたそれに、耳を傾けないわけにはいかなかった。







「俺を知らない奴と、俺の話がしたいんだ」




​───今日の夜は、いつまでか。