「あーあ、恋したいなぁ」


金曜日の夕暮れ時───放課後の教室にて。

冬期休暇が着々と近づく12月半ば、窓からグラウンドを見つめていた杏未は、紅茶をひとくち啜り、ため息交じりにそんな言葉を落とした。



つられるように視線を向ける。窓の外は雪が降っていて、グラウンド白い膜ができていた。

寒い中グラウンドを走る陸上部の姿やマフラーやコートに身を包み、お互いの温度を共有するように素手を重ねて歩くカップルをとらえ、青春だな、と心の中で思う。



「冬ってやっぱ人肌恋しくならない?センチメンタルっていうかー」

「んー…まあ、わかるかも」

「だよねぇ。はぁ、良い人いないかなぁ」



窓の外。見るからに冷たそうな白い世界から目を離し、机の上に広げた数学のワークに視線を落とす。


世界は今日も忙しない。

私と杏未が放課後、こうして誰もいない教室で景色を眺めている間にも、勉強や仕事に追われている人がたくさんいるのだ。



あっという間に冬が来た。私と杏未が駅前のカフェで泣きながら話をしたのは太陽が照り付ける夏場のこと。放課後の教室に通うようになったのは、紅葉が散り始める秋の終わりのこと。すっかり変わった景色を見て、少しだけセンチメンタルな気分になる。

杏未の言う通り、冬は、そういう季節みたいだ。