*
ブーッと、ポケットに入れていたスマホが振動した。大学の友達が泊まりに来ていて、一緒に餃子を作っている最中のことだった。
布巾で手を拭き、ポケットからスマホを取り出す。メールの赤い通知マークが付いている。
「メールだ」
「叔母さん?にっちゃんのこと常に心配してるし」
にっちゃんというのは、大学に入ってから付けられたわたしのあだ名だった。西本やえの頭文字を取るなんて、少し斬新だなと思った記憶がある。
「いや、多分何かのメルマガ───……」
画面を開き、言葉を失った。不自然に言葉が途切れ、そのまま全身の力が抜けたようにその場にしゃがみ込む。
日之出綺。
今、メールを送ってきたのは、日之出綺だ。いつ見ても美しく、インパクトのある名前。忘れることなど、できるわけが無い。