綺の母親に遭遇したのは、駅前でショッピングをしていた時のことだ。


綺は元気に生きているらしい。夜に外に行くことが増えて心配だけど、大切な人ができたらしいという話だった。

それを聞いて、心から安心した。




「あの、わたし連絡先 変えてないので……、あの、電話繋がります」



たどたどしい日本語に、綺の母親はきょとんとしていた。返事は聞かず、「それじゃ、」と頭を下げて背を向ける。


またね、と聞こえたような気がしたけれど聞こえなかった振りをした。



またね かどうかは綺が決めること。わたしから綺に連絡をすることは、これから先もきっとない。綺の自由を、二度も奪いたくはないから。


あの時はごめんね。たくさん迷惑をかけて、綺の自由を奪ってごめんなさい。



もし、いつかまた綺に会えたら。
もし、いつかまた綺から連絡が来たら。

まともに脳が働かなかったあの時のわたしには絶対に言えなかった言葉を、綺はちゃんと伝えてくれるだろうか。