「ごめんね」も「さよなら」も「ありがとう」も。どんなに思っていても本人に伝わらないのでは何も意味がない。伝えたいと思う相手がいるなら、伝えるべきだ。
私にとっての杏未がそうだったように、綺にとってのやえさんもそうなのだ、きっと。
会う勇気はないけれど、ごめんねを言いたい。あの時の後悔を掬いたい。ワガママでいい。だって私たち、人生17年の少年少女だから。
「大丈夫だよ、綺。大丈夫、……知らんけどねっ」
真夜中さんが私によくやるみたいに語尾にそうつけると「保険かけんなよ」と笑われた。
「……ありがとう、蘭」
「どういたしまして」
ハンカチはもっていなかったので、服の裾を伸ばしてぐいっと目尻に溜まる雫を拭う。
綺の泣き顔を見たのは初めてで、ちょっとだけドキドキしたのは、不謹慎だから墓場まで持っていくことにする。
夜の空気が澄んでいる。
満天の星が味方するように私たちを見守っていた。