「昔、…やえに優しくしたのは、同情だった」
「……そう、なのかな」
「やえは苦しそうだから、寂しそうだから。俺がそばにいてあげないと、俺が優しくしてあげないとって、そんな自分に酔ってたんだよな、多分。優しい俺でいたかったんだ。誰かの力になりたいなんてさ、結局はただのエゴだから」
「、綺」
「やえじゃない。俺は、……俺が邪魔で進めない」
私の肩に顔をうずめていた綺は、話している間いったいどんな顔をしていたのだろう。
鼻を啜るような音と、掠れた声が交互に聞こえるたびに、胸が苦しかった。
綺は人の変化によく気づく。私と出会った時からずっとそうだった。そしてとても、優しくて思いやりがある人。
一般的に考えて、家族で出かけた帰り道に通った公園で、ひとりでベンチに座ってぼーっとしている不良少女を見かけても声をかけたりはしないから。
自分を知らない人と、自分の話がしたい。
あの夜、突然現れた綺にそう言われてとても驚いた。けれど、それと同時に、私はとてもわくわくしていたのだ。だから名前を教えた。だから、きみの話を聞いた。
純粋にとても楽しかった。出会って数か月経つけれど、今でも時々ふと思い返すほど、綺と出会った夜は印象的だった。