くしゃり、頭を撫でられた。ぱっと顔を上げると、綺は笑っていた。纏う雰囲気は優しくて、穏やかで、だけどとても、儚い。
表情だけじゃ、抱えているものの大きさは図れなかったけれど、綺がどうしようもなくちっぽけな存在に思えて、私は手を伸ばす。無意識だった。ちゃんとつなぎ留めておかないと、このままどこかへ行ってしまいそうな気がしたのだ。
「……らん」
今まで呼ばれた名前の中で、いちばん弱く、掠れた声だった。手を伸ばした先、確かに触れていた。何処にもいかないように、強く。鼻を掠める綺の香りに、どうしてか泣きたくなる。
「俺はどうしたら前に進めんのかなぁ……」
そのままの君でいていいの。綺は綺のまま、貴方の思うままに、生きていいじゃん。
そんな思いは簡単には声に出せないまま、私は綺を抱きしめるしか出来なかった。