「ねえ、綺」

「…うん?」

「前にも言ったけど、綺には可能な限り、平和の中を生きててほしいって思う」


きみの過去を受け止めるには、私じゃ頼りないかもしれない。上手い言葉をかけてあげられないかもしれない。

不登校で、簡単に夜に逃げてしまうような私だけど、そんな私に生きがいと居場所をくれたのは、他でもない(きみ)だから。



「元気ないなら元気づけてあげたいし、話したくないことは話さなくていいけど、ひとりで泣いてほしくない。人に話してもどうにもできないことなのかもしれないけど……それでも、大丈夫じゃない綺を見て見ぬふりなんか、できないよ」

「……蘭」

「綺は、私の大切な人だから」



だから、無理して自分の過去を話すことも、封じ込めることもしないでほしい。

そう言い退けて、私はきゅっと下唇を噛む。改めて言葉にするのはとても恥ずかしかった。夜じゃなかったら言えなかったかもしれない。慣れ親しんだ夜の空気にだけ許せる、らしくない台詞だった。