「それよりミヨーさん、今日アイス買わないんすか」
「あ、いや今日は財布を忘れて───…あ、」
ふと、思いだす。制服のポケットに閉まったまま存在を忘れていた500円の存在。
「どうしたんすかそれ?」
ポケットからそれを取り出して手のひらに乗せる。真夜中さんに不思議そうに尋ねられたので、この500円玉を貰うに至った経緯を話すことにした。
昼間の出来事。250円のチュリトスを落とした謝罪金で倍のお金をもらってしまったこと。使っていいかわからなくてそのままポケットに閉まったこと。
あの女性の方を、少しだけ、生きづらそうだと感じたこと。
「いや、勿体ないし使うべきです 何考えてるんすか?さすがに損すよそれは」
話を聞き終えて、真夜中さんがひとこと。迷う余地がなかったことが意外で、少しだけ動揺してしまった。
「貰ったんだから、その500円はミヨーさんのものっすよ。拾った訳でもないんだし」
「そういう……もので、いいんですかね」
「いいんすよ。その500円くれた人に生きづらそうって言うけど、おれからしたらミヨーさんもその人も、同じくらい生きづらそうです」
そう言われては何も言い返せまい。
「じゃあ使います」とだけ言って、私はアイスコーナーに向かった。