「にっちゃん、だいじょぶー?」

「っあ、う、うんっ」



にっちゃん というのが彼女のあだ名なのか、おそらく連れであろう彼女と同世代の女の人が数メートル先から呼んでいる。

すると、彼女はおもむろに鞄の中から財布を取り出し、500円玉を私の手のひらに握らせた。



「え、あのっ」


声を上げるも、勢いよく頭を下げた女の人は 何も言わずその場から走り去ってしまった。

遠目に連れの方と目が合って、謝罪代わりなのかぺこりと頭を下げられたので、私も同じように頭を下げる。黒のチュールスカートが視線の先で揺れていた。



「蘭ちゃん、ゴミ箱あっちにあるよ。それもう食べれないよね……、新しいの買いに行く?」

「あ、うん。新しいのは……いいかな、他の食べる」

「そかー」



床に零れた砂糖をティッシュで軽く拭き上げて、近くにあったゴミ箱に捨てる。

ふう、と息を吐いたところで「じゃあこれ一口あげる」と杏未がチュリトスを差し出してくれた。その言葉に甘えて、ザク…と音を立ててそれを口に含む。チョコレートと砂糖の甘みが口に広がった。