「ほら、それに!あの時間がなかったら、日之出くんの高校の文化祭にも来なかったと思うしさっ!」

「もー……杏未ってばそれは現金……あ、すみません」



そんな話をしながら廊下を歩いていると、向かいから俯きがちにやって来る女の人とぶつかった。



反射的に謝ると同時に、ぶつかった時の勢いで手元が滑り、持っていたチュリトスがぼとりと床に落ちる。

あ、と言う声は、私のものだったか杏未のものであったかは定かではなかったが、ひゅうっと息を吸う音が目の前にいた女の人から出ていたことは確かだった。



「あ、あ……」

「あの、ごめんなさい。前見てなくて……怪我ないですか」

「ど、あ……っ、あ、」

「全然、大丈夫ですよ、ホントに」



しゃがみ込んでチュリトスを拾い上げる。見るからに動揺して言葉を詰まらせているその人がなんだか不憫で、人向けの笑顔を浮かべてそう言うも、彼女は俯いたままで目は合わなかった。