実を言うと、昨日の夜はあまり眠れなかった。

と言うのも、綺と私の基準はいつだって夜だったからだ。日中に会うことも多くはなっていたけれど、学校というひとつの場所に居る綺のことはまだ全然知らない。


綺を取り巻く環境を知りたいけど、怖かった。

だってあの・・綺だ。フレンドリーで明るくて人を救うことが出来る彼が、人気じゃないわけが無い。友達だってきっとたくさんいて、私が来たことにすら気付いてくれないかもしれない。

綺と自分が息をする世界がまるで違ったら、どうしようもなく夜に逃げ出したくなってしまいそう。それが少しだけ、怖かった。


「蘭ちゃん、大丈夫!」



すると、不意に隣からそんな声が聞こえた。視線を移すと、杏未が「大丈夫っ!」と、同じ言葉を繰り返す。


根拠の無い言葉は信用出来ないのに、綺のそれと同様に、杏未の「大丈夫」もまた、どこか安心感があった。