空気が澄んでいた。あっという間に梅雨があけて、夏が来て。8月も後半に差し掛かればあという間に秋になる。季節と時間だけは一切人間の心に惑わされることなく過ぎていくものだから、それがとても羨ましかった。


他人の影響を受けない人生だったら、どんなにラクだっただろう。


思うままに、皆好きなことだけをして、気が向いた時にやりたい学習をして、関わりたい人とだけ関わる。そういう生き方が主流だったら、心に傷を抱える人もきっと減るはずなのに。


どうにもならない人生があと何十年も続くのかと思ったら、なんだか悲しくなってしまう。



「手でもつなぐ?」


そんなことを考える私を余所に、綺は唐突にそんなことを言いだした。右手を差し出して、「ん」という。街灯の光が、瞳に綺麗に差し込んでいた。