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「らーん」
綺の背中を追うように半歩後ろを歩いていると、立ち止まって振り返った綺が間延びした声で名前を呼んだ。なに、と返せば、「んーや?」とよくわからない返事が返ってきた。
「隣歩いてくんね?連れ去られたらこえーじゃん、夜だぜ」
「いやぁ、今更すぎない?」
「それな。でもまじ 忘れてたけどさ、公園までの未知とか、住宅街だから安全ってなんの根拠にもならんよな。蘭が来なかったらどうしようって、深夜に会ってた頃は結構思ってた」
「だからいつもくるの早かったの?」
「それもある。でもいちばんは、母さんと妹が寝て、父さんが風呂に入る時間だから抜けやすかったんだわ、その時間が」
「ふうん」
20時手前。私たちが落ち合う時間は、初期の頃に比べるととても早くなった。
夜は長いものだ。21時過ぎに綺と手を振り別れたとしても、そこからまた、深い夜が来る。
最近、眠りにつきやすくなった。日中に外に出る日が増えたからか、部屋の温度と夜の空気しか知らなかった私に訪れた環境の変化に、身体が追い付いていないのだと思う。
変わらず朝は絶望から始まるけれど、窓から差し込む太陽の光は、前ほど苦手ではなくなった。