昼間、綺から電話があった。
《今日、夜行けそう》
私は変わらず読書感想文を書いていた時で、思わぬ内容の電話に、「あ、そうなの」と感情が死んだみたいに端的な返事をすることしかできなかった。
《親が忌引でいないんだ。妹も友達の家泊まるって言ってて。だから、夜出れるよ》
「そうなのか」
《そです。夜だな、蘭》
「うん」
《おれらの時間だぜ、久々に原点》
「……うん」
《緊張してやんの》
電話越しに綺が笑っているのが聞こえる。
《じゃあまた夜にな》と言われて電話を切った後、緊張している事実がじわじわと心を侵食していき恥ずかしくなった。
私の物語が動いたら教えてほしいと、そう言ったのは綺なのに、会えないんじゃどうしようもないじゃないかと思っていた。電話をしようにも、長電話をするのは性に合わないし、声だけじゃ感情が伝わりにくいとも思っていた。
そしてなにより、私は通いなれた公園で綺と会うのが純粋に楽しみだったのだ。