蘭を見つけたのは、本当に偶然だった。
家族で出かけた帰りがたまたま遅くなって、家に帰るのがすっかり遅くなってしまったのだ。
蘭が同じ住宅街に住んでいることすら知らなかった。
引っ越してきたのは中学1年生の時だったけれど、その地域は学区内に中学校がふたつあったので、蘭とは別の学校だったのだと思う。
高校生になってから、公園とは無縁になり、部活にも入っていなかった俺は毎日友達と学校に残って喋ったり、街をぶらついたり、家でゲームをしたり。
そんな生活をして3年目に突入した時のことだったので、同じ学区内で見たことがない女の子がいることに疑問は抱かなかった。
車窓から見えた蘭の姿に気づいているのは俺だけだった。家族は1日の終わりということもあり疲弊していたのか、運転席に座る父と俺以外は皆寝ていた。父も淡々と運転をこなすのみで、見慣れた住宅街の景色を見ることもなかった。
両目の視力は2.0。夜の暗さが邪魔をしていたものの、どこか憂いを纏った彼女の姿が、脳裏に焼き付いて離れなかった。