その後すぐ、俺の家は父親の仕事の都合で引っ越すことになった。
やえを避け続ける理由ができて、どこかほっとした。
毎日のように、やえに会った時にいう言葉を考えていてノイローゼになりそうだったからなのかもしれない。やえに関するすべてが、ただ、苦しかったのだ。
やえが今、どこでどうしているのかは知らない。俺が最後にやえに会ったのは中学1年生の時だ。あの時から、俺が持っているやえの情報は更新されないまま、俺の中に残り続けている。
5年経った。5年も経ったのに、俺は何も変われないまま、あの日から立ち止まったまま今日まで生きている。
やえにしてやれなかったこと、してしまったこと。
中途半端に逃げ出してしまったこと。
ぽっかり空いてしまった空虚の穴は、今もどうにもできないまま時間だけを刻んでいる。