「やえちゃん、鬱になったんだって」



だから、病気という証明を得たやえが、とても羨ましかった。


やえが病院に言ったきっかけは、やえの不安定さをみかねた叔母さんがカウンセリングを受けさせたことらしい。


「綺はわたしがダメだから会いに来なくなったの?」
「綺は今日も来ないの」
「綺に会いたい」
「綺がいないならもう死にたい」

俺がやえから離れている間、やえはまるでひとりごとのようにそう呟いていたようだった。



「大丈夫かしらね……。あの子、昔から繊細だったでしょう」

「綺、最近会ってないの?やえちゃんの話、何にも知らなかったのかしら」

「鬱って、ねぇ。若い子でもなりやすい時代になったのねぇ」

「やえちゃんのこと、気にかけてあげなさいね」



そんなの、無理だ。やえのことを今更気に掛けるなんて、もう俺にはできない。やえは鬱病だから、周りがたくさん優しくしてくれる。俺じゃなくてもいい。俺がいなくたって やえは​────なんて。



やえは最初から全然「大丈夫」なんかじゃなかったのに。