俺と出会った年の冬、やえは完全に不登校になった。


行きたくないのならしょうがないと思う。俺だって朝どうしても起きたくない時があるし、金縛りにあったみたいに、身体が布団を離れようとしない時もある。


けれどやえの言葉や行動に軽々しく「わかる」と言ってはいけないような気がしていたから、共感はしなかった。代わりに、根拠もなく、「大丈夫だよ」と言った。無知でバカな小学3年生だった、俺なりの気遣いだった。




「綺がいなかったら、わたしはきっと今もひとりぼっちだった」



やえの口癖だった。人に感謝されるのは好きだ。俺という存在が必要とされている気がして、心地が良いから。


いつだって、得体のしれない何かに認められたくて生きている。思い返せば、俺はあの時からずっとそんなしょうもない生き方をしていたらしい。

他人を怖がるやえより、俺の方がよっぽどビョーキじゃないかと思うほどだった。

それに気づいた時、あまりにくだらなくて、心底自分が嫌になった。