どうしてそれを母に聞いたのかわからない。不登校の私を受け止める包容力がある母がどう考えるか、純粋に知りたかったのかもしれない。

肩を叩いていた手が止まった。ぱっと顔を上げると、母のブラウンの双眸と目が合った。



「あるわよ」


母は、しっかりとそう言い切った。まっすぐすぎて言葉に詰まるほど、それは鮮明な音だった。



「2回に限らずね。気持ちがあるうちは何度だって、人は繋がりを求めていくものでしょ。楽しかった思い出、誰だってどう簡単に手放したくないものなのよ」

「…そっかぁ」

「蘭も、そうなのよ、きっと。どうでもいいことほど、忘れるのって簡単なの。苦しいとか辛いとか、例えば負の感情でも、相手に何かしらの気持ちを抱くってことは、忘れられないことの証明だから」

「証明……」

「手紙の……杏未ちゃんも。蘭のこと、わすれられない──…わすれたくないのかもしれないよ」



視線が映り、積み重なった便箋の束に向かう。私のことを忘れられないから、忘れたくないから、この1年、毎月欠かさず手紙を送って来たとしたら。



「若いってのは、それだけで武器だからね、蘭」



母の常套句が、やっぱり好きだ。