けれど、一刻も早く依楼葉は、この場から逃げなければならない。

誰かに見られたら、それこそ一大事だ。

依楼葉は直ぐに衣を直すと、起き上がろうとした。


すると帝が、腕を掴んだ。

「どこへ行くのです?」

依楼葉は、答える事ができない。

「冷たい方だ。あんなにも熱く情を交わしたと言うのに、その余韻にも浸らせてくれないとは。」

帝は依楼葉の髪に、口づけた。

だが依楼葉は、恐ろしくてたまらない。


この状況を、人に知られる事が。


「どうか……お許し下さい。」

依楼葉の体が震えている。

帝も、こればかりは許すしかなかった。

「分かった。行きなさい。」

その言葉に、依楼葉は上衣を持って、御簾納の中から出て行く。

帝は、御簾納に背中を向けた。


憂しと 思ふものから 
人の恋しきは いづこをしのぶ 心なるらむ

(つれないと思う人を、まだ恋しいと思うこの気持ちは、どこからくるものなのだろう。)