月曜日、まだ大学生活に慣れぬまま講義に出て、空きコマに図書館に行き、食堂で昼飯を食べる。今日は珍しく中島も一緒だったので、昼までは彼と共に行動した。食堂は人でごった返していて、12時になると食堂待ちの長蛇の列ができた。俺はその列を見て、地元で人気のラーメン屋を思い出す。あそこも確か、お昼時だけ他に飲食店がないのかと疑いたくなるくらいの人が並でいた。俺も中島と一緒に食堂の列をつくっていたが、ようやくご飯にありつくまで30分かかった。13時から三限が始まるというのに、毎日この感じでは全くお昼にゆっくりできないじゃないか。この人の量と食堂の広さが合っていないように感じた。

俺は白ご飯(中)と味噌カツ、吸い物、ほうれん草のおひたしという、超健康的なセレクトをし、中島はきつねうどんに白ご飯(大)という、炭水化物中心の食事をとっていた。中島は麺とご飯を一緒に食べる人間だということを、俺は初めて知った。
しかしこれだけの量のご飯を食べても、代金は400円ほどで済んだ。さすがは学食。財布にやさしいところは本当にありがたい。だからこそのあの列なんだろうな。

「そういえば早坂は、サークル決めたの?」
「いや、まったく決めてない」
「まじで。新歓やってるのも来月までだし、早いとこ決めちまった方がいいんじゃないか?」
「新歓ねえ。それって、適当に飲みに行って先輩たちと駄弁って、挙げ句の果てにそのサークルに引きずり込まれるっていうイベントだろう?」
「ひどい言われようだな。新歓って、超お得なんだぜ」

でも早坂らしい、と謎に感心されたあと、中島は「自分はサークルの新歓で二日分の飯代を浮かせた」ということを自慢げに話してきた。

新歓とは、4月〜5月の新入生が入ってくる時期に先輩たちが所属する部活やサークルで歓迎会という名目の勧誘活動を行うイベントのことだ。
大学に入ってから前も後ろも分からない新入生たちは、この時期に気になる部活やサークルの新歓に行けば、先輩たちと仲良くなれるし、ご飯を奢ってもらえたりする。
それを逆手に取って、特に気になりもしない新歓に行きまくってご飯代を浮かそうとする中島のような学生ももちろんいるわけで。
どちらかというと初対面でかつ大勢の人たちと会食するのが苦手な俺は、初対面で大勢でもとことん会食を楽しめる彼のような人間の前では、まったくひれ伏すしかない。

「まあ、とにかく何かサークルに入った方が、絶対学生生活楽しくなるって」

「うーん、そうか」

「そうそう。俺はもういくつか候補絞った」

「相変わらず部活とかサークルには一生懸命な奴だな」

「いいだろ、それで楽しんでるんだから」

彼の言うことは本当にごもっともで、実際リア充と呼ばれる人間は、彼のように大学時代にいかに自分に合ったクラブに入るかを最優先で考えている。勉学の方もそれなりに頑張りたいと思っている俺にとっては、彼らのような存在がまぶしく映るものだ。

結局その日、中島は午前中までしか授業をとっていないらしく、午後からは気になっているバスケサークルの練習に行くと言って別れた。
サークルもいいけれど、彼の単位について早速心配になる俺は一体、彼の母親の気分にでも浸っているのだろうか。

13時からの三限も無事に出席して、四限は空きコマだった。
空きコマって、いまいち何をすれば良いのか分からない。
だから午前中はとりあえず図書館に行ったが、大学の図書館は面白い小説や漫画が置いているわけではないらしく、レポート作成に役立ちそうな難しい本ばかりで退屈した。

先輩たちは空きコマに何をしているのだろう。
講義が行われている最中の構内はひどく静かで、時折すれ違う学生や車に乗った教授を目にするだけだった。
俺は構内を歩き回り暇な時間を潰した。明日からは、空きコマに何をするか考えて動かなければいけない。本の一冊くらいリュックに忍ばせておこう。うん、それがいい。