「アイツが今日、絢乃ちゃんの服装とか褒められないのも、照れ臭いの半分不器用なの半分、ってとこじゃないのかな。アイツ、昔っからそうなんだよ。女心分かってねえっつうか、女の子の扱いが苦手っつうのか……。まあそういうことだからさ、絢乃ちゃんもあんま気にすんなよ。あんなヤツだけど、大事にしてやって」

「はい! ありがとうございます」

 さすがは二人きりの兄弟だけあって、彼は実弟の性格を熟知している。この時も、さりげなく弟である貢のことをフォローして下さっていた。いいお兄さまだ。

 悠さんはわたしが一人娘だと聞いたことで、家を継ぐことの大変さについても心を砕いて下さっていた。

「――絢乃ちゃん、後継ぎってやっぱ大変なモンなの? オレも長男だけど、ウチの親はそういうことあんましやいやい言わねぇからさ。言ってもサラリーマン家庭だし?」

「ええ、まぁ……。大変といえば大変ですね。それだけ重い責任が伴うわけですし……。でもわたしは、父の遺言だからというのもありましたけど、自分の意志で継いだっていう部分もありますから。そんなに大変だとは思ってませんよ」

「へえー……、そうなんだぁ。オレよりひと回りも年下なのに、めっちゃ尊敬するわー」

 わたしはここまで褒めちぎられると照れ臭くなり、「いえいえ、そんなことないです!」と謙遜で返した。

「悠さんだって、ステキな夢をお持ちじゃないですか。将来はご自分のお店を出したいって。わたし、貢さんからちゃんと伺ってますよ? ――あ、着きましたね」

 悠さんと話し込んでいるうちに、エレベーターは会長室のある三十四階に到着していた。
 その直前にわたしが言ったことについては、悠さんは「……サンキュ」とはにかみながらお礼を言ってくれた。

「――ここが会長室です。少々お待ちくださいね、今開けますから」

 わたしはIDカードをセンサーにかざして認証させ、ドアノブにてをかけた。

「へぇー……、スゲェな。ここのセキュリティ、めっちゃハイテクじゃん」

「そうでもないと思いますけど。このフロアーの部屋だけ、社内の人間のIDカードをスキャンしないと、ドアのロックが解除できないようになってるんです」

「なるほどねぇ。っていうか、中から開けてもらってもよかったんじゃね?」

「それは、何だか申し訳なくて……。今だって、貢さんには半ば強制的にお留守番してもらってるので……」

「絢乃ちゃん、それってヘタすりゃパワハラだよ?」

「ですよねぇ……。コンプライアンス的にアウトですよね」

 彼が冗談でそんなことを言ったので、わたしは苦笑いした。……実はわたし自身、ちょっと反省していたから。