あれだけの規模の葬儀であれば、マイクロバスをチャーターすれば済む話だったと思うのだけれど。一人一人がプライドの高い我が一族はそれをよしとしなかったのだ。

 〝社葬〟といいながら、火葬場までついてきたのは一族を除けば彼と父の秘書を務めていた小川さんだけだった。
 彼女はわたしたち母娘と別の車に乗っていたけれど、火葬場に着くと母に驚くべき事実を打ち明けた。

「私、村上(むらかみ)社長の秘書を務めることになりました。本来なら新会長……多分、絢乃さんにそのまま付くはずだったんですが。ちゃんと後任者が決まってますので、業務はそちらにすべて引き継いでおりますので」

「あらそうなの……、お疲れさま。残念だわ。あなたはこれまで夫によく尽くしてくれてたものね」

 小川さんは父といい関係で働いてくれていた。でも、そこに恋愛感情があったということはなくて、彼女は父のことを、あくまで自身が仕えるべきボスとして尊敬していただけだった。
 そのため、母とも親しくしてくれていたし、わたしにも優しかった。

「奥さま、ありがとうございます。まあ、配置換えになるというだけで、会社を辞めるわけではないので、またお目にかかることもあると思います。その時はまた、お気軽にお声をかけて下さい。――では、私はこれで失礼します」

「あら、もう帰るの? 火葬されてる間、お座敷で精進(しょうじん)落としの仕出し料理を振る舞うことになってるんだけど」

「はい、私の分はご辞退申し上げます。私は部外者ですので、ご一族のお話に入れて頂くわけにもいきませんから」

 実はこの後、仕出し料理を頂きながら、グループの今後の経営について一族で話し合うことになっていたのだ。
 母はきっと、話し合いが紛糾(ふんきゅう)した時のストッパー役かレフェリー役が欲しかったのだと思う。

「そう……、じゃあ、気をつけてね」

「はい。絢乃さん、またお会いしましょうね。お母さまのこと、くれぐれもよろしくお願いします」

「ええ。小川さん、今日まで父を支えてくれてありがとう」

 彼女は泣き出しそうな顔でもう一度わたしたちにお辞儀をすると、タクシーを呼ぶために管理事務所までゆっくりと歩いて行った。

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 ――さて、その精進落とし兼親族会議の席として設けられた場において、母が望んでいたストッパー役、もしくはレフェリー役は先に帰ってしまった小川さんに代わり、彼が務めることとなった。

 でもわたしは、あの親族間の(みにく)い争いを、できることなら彼にだけは見せたくなかった。

 父の遺言で後継者に指名されていたわたしは、当然の結果として槍玉に挙げられており、せっかくの仕出し料理も食べた気がしなかった。