その見下すような態度に、わたしはムッとした。

「会長、クールに」と目で訴えてくる彼にそっと頷き、わたしは必死に怒りを抑え、大人の対応を試みた。ここで声を荒らげれば、わたしも有崎さんと同レベルに成り下がってしまうと分かっていたから。

「……ええ。彼はわたしの秘書で、今日の同伴者ですが。それが何か?」

「ふぅん、コイツがねぇ……」

 それでもなお、この男は彼に対して(しゃく)に障るような態度を改めようとしなかった。

「あの、彼が貴方に対して何か失礼でも? でしたら、わたしが彼に代わってお詫びしますが」

 口ぶりはあくまでもわたしの方が(した)()だったけれど、わたしとしては彼の肩を持ったつもりだった。まさかそのせいで、この後彼との関係に決定的な溝ができてしまうとは夢にも思わずに。

「いや別に。……あ、ちょうどいいや。キミもセレブなら、男は選んだ方がいいぜ。こんな地味で冴えない男より、オレの方がキミにはふさわしいと思うけど。だって二人、全然釣り合ってねぇもん。――じゃあな」

「余計なお世話です。失礼します」

 最後まで鼻につく言い方で、ここ一番の捨て台詞を吐いて会場へ戻っていくイヤミな彼に、わたしも負けじと捨て台詞で返した。

「――桐島さん、気分はどう? 顔色は……だいぶよさそうだけど」

「…………ええ、まあ。何とか大丈夫です。ご心配をおかけしてすみません」

「そう……」

 あの出来事で、彼は別の意味で気分を害したはずなのだけれど。わたし相手に、そんなにやせ我慢しなくてもいいのに、彼は精一杯虚勢を張っていた。

「じゃあ、戻りましょうか」

 わたしたちも会場に戻り、パーティーの続きを楽しもうとしたけれど。彼が心から楽しんでいないことは、火を見るよりも明らかだった。
 有崎さんは一体、彼に何を吹き込んだのだろう? どうして彼は、あの男に一言も反論しなかったのだろう? 
 わたしが彼の内に潜む苦悩や、ずっとわたしに打ち明けられなかった本心を知ったのは、この日の帰りのことだった。

****

「――貢、さっきは災難だったねー」

 帰りの車の中で、わたしはあの事件について努めて明るくコメントした。

「…………」

 運転席の彼は、いつもなら何かと助手席のわたしに話しかけてくれるのに、この時は不気味なくらい口数が少なかった。

 わたしはこの雰囲気がどうにも息苦しくて、落ち着かなくて。彼に何か言ってほしくて、ひたすらに言葉を重ねた。

「あんな人の言ったことなんて、気にすることないわ。貴方のこと、何も知らないんだもの」

「…………はい」

「あの人、すっごく感じ悪かったよね。自分がお坊っちゃま育ちなのを鼻にかけてるのよ。今日乗ってきた車、見たでしょ? 真っ赤なランボルギーニよ。あれ絶対、親のスネかじって買ってもらったのよ」

「…………」

 それでもまだ、彼はほとんど無言を貫いていた。まるで、わたしとの会話を拒否しているかのように……。