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パワハラ被害に遭っていた社員全員の証言が揃い、島谷課長が退職勧告を受け入れて会社を辞め、わたしと村上社長が謝罪会見を開いたのは三月三十日。年度末ギリギリのことだった。
『マスコミ各社のみなさま、本日はご足労頂きまして、誠に恐縮でございます。ただいまより、弊社社員により行われておりましたパワハラ事案について、弊社社長・村上及び〈篠沢グループ〉総帥・篠沢絢乃会長によります謝罪会見を行います』
広報部の女性社員の挨拶に続き、マイクの置かれた会見席に着いていたわたしと村上さんが立ち上がり、ゆっくりと謝罪した。
『弊社におきまして、昨年秋から半年間に渡り起きておりました一部管理職によるパワハラ事案につき、当該部署の社員及び世間のみなさまに多大なご迷惑をおかけしてしまいましたこと、誠に申し訳ございませんでした!』
この日のわたしは紺色のスーツに、ブルーがかった白のシンプルなブラウス姿。スカートはタイトで、靴も黒のパンプスだった。
「服装からも、その経営者が本当に反省しているのかどうかが感じ取れるんです」とは、貢の直属の上司にあたる秘書室の広田妙子室長の言葉。彼女は勤続二十年以上、秘書室勤務だけで十年以上のベテランである。
『今後はこのようなことが二度と起こらないよう、再発防止のために全力を尽くして参ります。ですので、新年度から弊社に入社されるみなさんは、安心して弊社で仕事に励んで下さい』
『――では、報道陣のみなさま。ご質問のある方は挙手をお願い致します。順番にこちらから指名させて頂きますので、所属名とお名前をお願い致します』
もちろん、報道陣の人たちにしてみれば訊きたいこと、知りたいことだらけだろう。あちこちから手が挙がった。どの人の表情も険しかった。
謝罪会見の本番はここからだと、わたしは気を緩めることなく、いっそう背筋を正した。
「――会長さんに質問なんですが。先ほど、問題が起き始めたのは半年前だとおっしゃってましたが、どうして今になって公表に踏み切ったんでしょうか? もっと早くに公にしようとは思わなかったんですか?」
この質問をしてきたのは、新聞社の記者だと名乗った三十代後半くらいの男性。目つきが鋭く、口調にもトゲがあって、ちょっと怖かった。
『それは、この問題自体、発覚したのがつい最近のことだったからです。ですから、このタイミングになりました。もっと早く公表することは不可能でした』
それでもわたしは、怯んでしまいそうな自分を奮い立たせ、臆することなく質問に答えた。