わたしは二人の幹部に、一番気にかかっていたことを訊ねてみた。
 全社員の顔と名前が一致していて、〝脳内データベース化〟が完了していたであろう父が知っていたとしたら、手をこまねいていたはずはない。ましてや隠蔽なんてあり得ない。
「社員は家族と同じ」という信念を持っていたのでなおさらだった。

「……多分、源一会長までは報告が上がっていなかったんじゃないでしょうか。ですから、この件に関しては何もご存じなかったと思います。もしご存じだったとしても、ご自身の体調がすぐれなかったのでそれどころではなかったとか。――いえ、失礼しました」

「ありがとう、村上さん。――ということは、父は知らなかったということですね? 知っていて隠蔽したわけではない、と。分かりました。それを聞いて、わたしも少し安心しました」

 やっぱり父は、隠蔽や揉み消しなどの裏工作を行っていなかった。わたしの尊敬する父のままだったのだ。
 とすれば、その父の娘であるわたしがすべきことは、たったひとつしかなかった。

「――わたしはこの件を、マスコミを通じて世間に公表すべきだと思っていますが、どう思われますか? 村上さん、山崎さん。貴方がたはわたしより長く、この会社に関わってらっしゃいますよね。どうか、ご()(たん)ない意見を聞かせて頂けませんか?」

「会長、不祥事を公表するとなれば、我が社のイメージダウンは避けられませんが。それもお覚悟のうえでおっしゃっているんですね?」

 山崎さんの指摘はもっともだった。
 この問題そのものを隠蔽して、なかったことにできれば表向きは会社の体面やイメージを保つことができるだろう。でも、それでは根本的な解決にはならないのだと、わたしは思っていた。

「もちろんです。この問題を隠蔽して表向きにクリーンなイメージを保っても、何の解決にもなりません。むしろ、後から発覚した時に受けるダメージの方が大きいと思います。公表したところで、どのみち少々のイメージダウンは避けられませんが、信頼回復に要する時間はそれほどかからないと思うんです」

 わたしの言ったことは、綺麗ごとに過ぎないのかもしれない。ただの理想論なのかもしれない。――そう思うと、わたしはまだまだ経営者として甘いのかな、と思った。

「それに、今も苦しんでいる人たちがいる以上、その社員たちを救うこともわたしたちの責務なんじゃないでしょうか」

「そう……ですね。会長のおっしゃることはごもっともだと僕も思います。社長として、会長とともに非難を受ける腹づもりでいましょう。――山崎さん、あなたはいかがですか?」