まあ、さっきそう確認したばかりなのだけど、千雪の話が本当であれば、華乃子にも雪女の血が流れている。この雪を、操れないことは、無いのでは……?

(え……っ? 操るって、どうやって?)

雪月はどうやって華乃子をこの寒さから守ってくれていたんだろう? 何か呪文を唱えた素振りはなかったから、やっぱり念じたとか、そういうこと? 雪樹は、あの年齢で念じるなんて、出来るのだろうか?
自分に対して疑心暗鬼になってくると、思考も止まる。出来ないんじゃないかと思ってしまう心が、余計に『念じる』ことを難しくさせた気がした。
兎に角前向きに何かをしないと凍えてしまう。さっき雪女たちに、『これしきの雪』と言われてしまったし、華乃子はやけくその気持ちになって、腹の底から叫んだ。

「あーっ、もう! そうよ、私は人間だったわ! でも実は半分雪女だったの! だから、雪よ、止みなさいっ!!」

やけくそで叫んだら、不意に雪の威力が弱まった。……えっ、意外と言葉にすれば雪は言うことを聞くものなの?

『なんだ!? 雪の勢いが弱くなったぞ!?』
『華乃子、一体、何をしたんだ!?』

太助と白飛の言葉を聞きながらぽかんと雪景色を見ていたら、脳裏にやさしい気配をさせた誰かが語り掛けてきた。

「……我、は? え……っ?」

頭にこだまするその言葉を、小さな声で唱える。すると、急に雪が止んだ。

(え……っ? なにこれ? 今のって、信じていいの……?)

今ひとつ疑念が晴れないが、此処で凍え死ぬよりはやれることはやっておいた方が悔いがなくて良い。華乃子はもう一度腹に力を込めて、厳かに叫んだ。

「我は水の御霊を宿す者なり! 我が行く先に道を拓け!」

言葉が雪原の隅々まで行き渡り、驚くことに華乃子の前には降雪が拓けて屋敷まで道が出来ていた。

「えええっ!」
『おい! 華乃子! 一体何をしたんだ!?』

半信半疑で唱えた言葉に、こんな威力があるなんて信じられない。

「……って、信じられないとか言ってる場合じゃないわ! もう早く帰ってしまわないと、本当に凍える!」

華乃子たちは雪の拓けた道を二人と一緒に大急ぎで屋敷まで帰った。
それでも屋敷の玄関では、沙雪が華乃子を蔑視するような目で見た。

「人間の分際で、凍死しなかっただけでも儲けものでしたね。雪山が温情を掛けたのでしょう。まあ、そのまま凍ってしまっても構いませんでしたが」

言うだけ言って、ふん、と屋敷の奥へ行ってしまった。
人間というだけで、こんなにこき下ろされなければならないなんて……。
でも、雪月の伴侶として認めてもらいたくて此処に来たのだ。なんとかして彼女たちに認めてもらわなければならない。
何をしたら認めてもらえるのだろう、と華乃子は考えた。