「本当に龍久(たつひさ)さまのご加護があるか確かめたいのです……。雪女の力が半分でも、龍久さまの加護があるなら、無事戻ってきましょう。千年を生きる龍久さまの加護は雪女にとっても好都合。雪月殿も他の雪女たちを説き伏せやすくなると思いますが?」

悔しいが千雪の言う通りだ。雪月が一人華乃子を伴って婚姻の宣誓をしたところで、一族に受け入れてもらわなければ、一族の跡を継ぐことは出来ない。しかし千雪も言う通り、華乃子の半分は人間だ。郷の過酷な環境に耐えられなかったら、どうするつもりだ。

「華乃子さんは半分人間なんです。命の危険に晒されるかもしれないんですよ?」
「人が持たぬ妖力を持った時点で華乃子はあやかしです。その証を示さねば、郷には受け入れてもらえないでしょう。雪月殿も、それは不都合なのではありませんか?」

華乃子を愛した千雪が、華乃子の生きてきた時間を否定する。『視える』ことを隠し、人間として普通に在りたいと願って生きてきた華乃子にこの言葉を聞かせたら、どんなに悲しむことだろう。
雪月は千雪を憎く思った。華乃子を傷付けるものは誰であっても許さない。引き留めた千雪を置いて雪月が屋敷を玄関に向かって早足で歩いていると、沙雪に呼び止められた。

「雪月さま! あの娘はお止めください! 仮に半妖であっても、郷の血を汚すだけです!」

沙雪を始め、雪女の郷の住人が純血を望んでいることは知っている。力こそすべてと考えるあやかしが、血が濁ることを好まないのは当然だろう。しかし雪月が愛したのは華乃子だ。純粋な心で幼い雪月を見つけ、差別のない対応で雪月の心を満たしてくれた。あの時華乃子が与えてくれたやさしさによって芽生えた気持ちがなければ、雪月は何時まで経っても男の雪女という重い責務を負えなかっただろう。
あの時幼いなりだった雪月も、華乃子を想う気持ちを糧に成長した。あやかしは力によって取れる形態が異なる。力の弱かった雪月は人間には雪だるまにしか見えなかったし、華乃子には子供の姿にしか見えなかった。華乃子を想うことで、雪月は雪女としての力を見る見るうちに増し、人間の青年の姿を取れるようになった。彼女の前に再び姿を現せたのも、また、華乃子のおかげなのだ。

華乃子を、いっときだって見捨てることなんて出来ない。
その想いが、脚を動かす。
それを引き留めたのは、やはり冷静にとんだ冷ややかな一言だった。

「私は千雪に賛成する。血よりも力で示させたらどうだ」

はっと雪月が振り返った其処には一族の長、光雪が居た。