自転車を取りに公園に戻ると、満島くんはもういなかった。

……そりゃそうか。

私は苦笑しながら自転車のロックを外して帰ろうとした。
このまま帰っていいのだろうか。
葵が真剣に思いを伝えてくれて、勇気をもらった。
私も、いまなら素直に言えるかもしれない、そう思った。
だけど、時間を置くと、やっぱり気持ちが揺らぐ。
そのとき、鞄の中でスマホが震えた。
「……!」
満島くんからだ。
緊張しながら、はい、と電話にでた。
「葵に会えた?」
満島くんは真っ先に尋ねた。最後まで話を聞かずに公園を飛び出したから、心配してくれていたのだ。
「会えたよ。ありがとう」
満島くん、と私は呼びかける。
「いま、どこ?」
「さっきの公園の、すぐ近く」
えっ、と思い、あたりを見渡した。
公園のフェンスの向こうに、スマホを耳にあてている満島くんがいた。
目が合うと、満島くんがこっちに向かって手を振った。
「そっち行くよ」
風が吹いて、桜が舞った。
高2のとき、満島くんが告白してくれたのも、桜の季節だった。
すごく嬉しかった。
初めて好きだと言ってくれた人。
満島くんは、あの日を覚えていますか?
「きれいだな」
満島くんが見上げてつぶやく。
「うん」
私はうなずいて、満島くんに向き合った。
本当の気持ちなんて、言えるはずないと思っていた。
彼女がいるから。
振られるのがわかっているから。
言っても困らせるだけだから。
だけどそう決めつけていたのは自分で、本当は、言えない理由なんてどこにもなかった。
葵が好きだと言ってくれて、嬉しかった。
困ったりしなかった。
だから、私も今度こそ、素直な気持ちを伝えてみようと思えたんだ。

「満島くん」

強ばる唇を開く。

「ずっと、好きでした」

体がすっと解き放たれたように軽くなった。
かわりに、目の奥がじんと熱くなる。

……言えた。

心の中にあった、まっすぐな思い。
満島くんを嫌いになったことなんて、一度もなかった。
大きくて、優しくて、温かい、大好きな人。

「ごめんな。その気持ちには、応えられない」

わかりきっていた答えに、それでも胸が痛んだ。
けれど、満島くんは私のほうへ歩み寄って、

「でも、好きでいてくれて、ありがとう」

そう言って優しく微笑んでくれたから、嬉しくて。
私は涙があふれて、両手で顔を覆ってその場にしゃがみ込んだ。