満島くんの話を聞いて、私は公園を飛び出した。
公園の前に停めていた自転車の存在すら忘れるくらい。
必死に葵を探した。
全力で走ったのは、部活で足を怪我して以来、3年ぶりだった。
もういままでのようには走れない、そう医者に言われていたけれど、かまわなかった。
走れなくなるより、2度と葵に会えないほうが、嫌だった。
いま掴まえなければ、私はまた後悔する。

ねえ、葵。
どうして私に会いに来たの。
言いたいことがあったんじゃないの。

それを聞くまでは、帰るなんて許さないから。

3年も走っていなかったのに、まるで毎日練習していたかのように、当時の感覚がすぐに思い出せた。
もちろん、実際には足が思うように速く動くわけじゃなく、タイムを測れば散々だろうけれど。
これはレースじゃない。コースもタイムもない。

『ずっと悩んでいた』

葵はそう言った。
先の見えない道をくぐり抜けて、悩んで悩んで、勇気を振り絞って、葵は私に会いにきたのだ。

『俺も失恋したんだ。だから、慰めてよ』

あの言葉が、葵にとって、どれだけ強がりだったのか。

『じゃあ、キスしたい』

どういう気持ちで、そう言ったのか。

『いいよ』

私がうなずいたときの、葵のびっくりした顔が、それを物語っていた。
きっと、最初から無理だと思っていたのだろう。受け入れてもらえるなんて、考えもしなかったのだろう。
私には強気なことばかり言っていたのに。