「今日はよろしくな、日浦さん」
「えっ」
黒い腰エプロンを巻いた満島くんに、私は驚いた。
満島くんが珍しく早く来ている……いや、そうじゃない。それもレアだけれど、いつもキッチンにいる満島くんが、ホールにいることだ。
紗栄子が風邪を引いて休んだのは聞いていたけれど、満島くんと2人でホールに入るのは知らなかった。
「接客久々だから、ちょっと緊張するな」
「そ、そっか」
私は満島くんが隣にいるだけで緊張する。
「日浦さん、バイト慣れた?」
目を見られないまま、私は頷く。
「……少し」
「緊張してる?」
「…………」
「なんか、ごめんね、俺で」
「え?」
顔をあげると、満島くんが困ったように見ていた。
「違う、そんなことない」
「そっか。ならよかった」
そう言って笑う満島くんに、思わずきゅんとした。
やっぱり満島くんはカッコいいな、と思った。
そんなときめきは、忙しさであっという間に打ち消されるのだけれど。
「すみませーん」
「はいっ!」
「注文したデザートまだぁ?」
「少々お待ちください!」
急いでカウンターに行くと、デザートかできたところだった。
「日浦さん、これお願いねー」
キッチンに入っている男の子に言われて、私はトレーを手に持つ。グラリとトレーが傾いた。
あ、と思ったとき、
「おっと、危な」
満島くんが滑りかけたトレーを受け止めてくれた。
「はい」
「あ、ありがとう……」
「焦らず、ゆっくりな」
「はい……」
また、やってしまった。満島くんが受け止めてくれなかったら、間違いなく前みたいな惨事になっていた。
私は慎重にデザートを運んで、小さく息を吐いた。