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高校2年の夏、私は部活の練習中に怪我をした。
突然、足に力が入らなくなって、派手に転倒した。
『奈々瀬っ!』
満島くんが真っ先に駆け寄ってきて、私の体を支えた。顧問の先生が救急車を呼んだ。
夏なのに、右足がぞっとするほど冷たかった。
医者がだした結論は「完全な再生は不可能」だった。
日常生活を送れる程度には戻れるけれど、もう元のように全力で走ることはできない。
前兆はあった。足が思うように動かなかったこと。いつもより疲れやすくなっているのも感じていた。部長になったばかりの満島くんは、私の異変に気づいて何度も心配する声をかけてくれた。
でも、私はその声も、自分の体が発する危険信号も、無視して走り続けた。大事な大会を前にして、休むわけにはいかなかった。
結果、私は2度と走れなくなった。
マネージャーとして残ることもできたけれど、私は逃げるように部活を辞めて、夏休み中部屋にこもっていた。
満島くんは何度も家まで来てくれたけれど、とても会える状態じゃなかった。
満島くんに会うのが辛かった。
私が満島くんの彼女でいられたのは、同じ陸上部だったから。同じ目標に向かって一緒に頑張ることができたから。
走ることすらできなくなった私は、満島くんの優しさが辛かった。
私が弱かったから。
部活を辞めて、2学期がはじまってからは、満島くんに会う機会がぐんと減った。
そして、
『ごめんなさい』
私から、別れを告げた。
あのときの胸を抉られるような気持ちは、いまも続いている。
ごめんなさい。満島くんの顔を見るたびに、そう思う。
泣きたくなるほど不器用だ。
だけど、いまでも、満島くんが好きなのだ。