公園を出たところで黒塗りの車とすれ違う。
運転席と助手席に、先ほどのおじさん。
イライラした様子でタバコを吸っている。

すれ違う瞬間、やけに景色がスローモーションに見えて、後部座席にもひとり、色つきサングラスをかけた茶髪の男が座っていることに気付く。

「(……あ、)」

その男と、目が合った。
刹那、切れ長の目が真冬を射抜く。
蛇に睨まれた蛙のように、真冬は体が硬直してしまいその場から動けなくなった。

車はあっという間に真冬の目の前を通り過ぎたのに、男の顔だけが脳裏にこびりついて離れない。

得体の知れない恐怖に耐え、真冬は手をぎゅっと握りしめて、なんとか足を前に踏み出した。

家に着いてドアを開こうとするも、いつもなら鍵がかかっていないはずのドアが開かない。

「……ただいま」
「……真冬?」

ランドセルから鍵を取り出し、昨日まではなかったたくさんの傷がついたドアを開けて帰宅を告げると、リビングから母親の怯えた声が返ってくる。

そうだ、と返すと「お兄ちゃんはまだなのね」と母親はホッとしたように息を吐いた。

そんな母親のことは気にせず、真冬はそのまま2階の自室に向かった。
物置程度の広さしかないが、去年やっと与えられた真冬にとっては唯一の天国のような場所だ。