大きな公園が近くにあるせいか、犬の散歩にたまに人が通るぐらいで、滅多に人がうろつかない小さな公園。

そこにはすべり台とシーソーとベンチ、それにブランコがふたつ並んでいる。

ランドセルを地面に置いた真冬はそのうちのひとつに座って、ぎーこぎーこと漕ぎ始めた。

「(そういえば最近いつもお父さん家にいたな)」

両親は兄ばかりに愛情を注ぐので、真冬にとってはいてもいなくてもあまり変わらず、両親にとっても真冬の存在は同様だった。

だからずっと家にいるなんて、特に気にもかけていなかった。

父親が口うるさいことに兄が少し愚痴を言っていたのを覚えていたぐらいだ。

いつになったら帰れるのだろう。
年の離れた兄はアルバイトでまだ帰ってこないはず。

冷たい風が吹いている。
ぎーこぎーこ、ブランコを揺らす手が悴んできた。

マフラーも手袋も買ってもらえなくて、この時期に合っていない薄着の真冬。
当たり前のように体温がどんどん失われていく。

チラリ、視線を感じてそちらを見ると、犬を連れた近所のアオキさん。

いつもなら「真冬ちゃん、これあげるね」とお菓子をくれるのに、真冬と目が合うとオバケでも見たかのように目を丸くして来た道を引き返していった。

田舎は噂話が広まるのが早い。
この一帯の家中に真冬の家にヤクザが来ていたことは知られているはずだ。

「(ここにいても迷惑か……)」

白い息を吐き出すと、真冬は置きっぱなしにしていたランドセルを背負い、再び家に向かって歩き始めた。