その日の晩、ダークグレーのスーツを着た高見は疲れた様子で近所のお惣菜屋さんの弁当をひとつ持って部屋にやってきた。

「真冬、飯」
「……今日はいい」

いざ高見にバレるかもしれないと思うと、少し怖気付いてしまって、真冬は隠れるようにベッドに潜り込んだ。

「体調悪いのか」
「大丈夫」

今日に限って高見はすぐに帰らず、ベッドの近くに腰を下ろし、煙草に火をつけた。
高見が布団の上から真冬の頭をゆっくり撫でる。

手のひらから伝わるぬくもりに優しさを感じた真冬は、なんだか妙に恥ずかしくなって、もぞもぞと高見から顔を背けるように寝返りを打った。

その瞬間、手の動きが止まった。

捲れた布団の隙間から真っ白なシーツに広がっている赤い斑点が高見の目に映ってしまったらしい。

瞬時にそれを血だと認識した高見は、ぐいっと真冬の腕を掴んで、手首がよく見えるように持ち上げた。
切れ長の目はいつにも増して鋭くなっている。

「これは何だ」
「……」
「自分でやったのか」
「……そう」

否定しないのは、肯定しているのと同義だ。
高見の圧に耐えられず、真冬は背を向けたまま白状する。

ぎりぎりと腕を掴んだ高見の手は、痣になりそうなほど強い力がこもっていた。