もし自分が本当に特別だったとして、ルールを破ったら、高見さんはわたしを捨ててしまうのだろうか。
真冬は高見を試すようにそんなことを考えるようになった。
ある日、スキンヘッドが真冬の髪を切るために持ってきてそのままになっていたテーブルの上のハサミが、いつものようにベッドに寝転がっていた真冬の目にはいる。
髪すきバサミなんて持っていないスキンヘッドは、100円ショップで購入したという文房具のハサミでいつも髪を整えてくれていた。
中学生の頃、剃刀で手首を切っちゃったと同級生がこそこそと話しているのを聞いたことがあった。
あの子のように剃刀ではないけれど、ハサミで手首を切れば何かわかるだろうか。
真冬はベッドから降りて震える手でハサミを持った。
そしてまたベッドの上に戻り、バクバクとうるさい音を立てる心臓を落ち着かせるように深く息を吐いた。
血管の見える左の手首に狙いを定める。
チョキン。
皮膚は切れたけど、なかなか血は流れてこない。
チョキン、チョキン。
今度は続けて2回切る。
次第にぷくっと赤いのが膨らんできて、そのまま手首から垂れたそれは、シーツに赤い染みを作った。
少しの痛みを感じるだけで、死ねるほどの血は流せないのだな、と真冬は麻痺した感覚でそう思った。