高見という男は優しいひとだ。
12歳という真冬の年齢ぐらい詐称してすぐに風俗に売るなり、殺して臓器を売って金にするなりしてしまえばよかったのに、わざわざ親に売られた真冬を東京まで連れ帰って、中学校にまで通わせてくれた。
2回だけ転校することになったけれど、校外学習や修学旅行の行事には参加できなかったけれど、中学生の真冬は特に不自由のない生活を送っていた。
お腹が空いたと飢えに苦しむことはなかったし、寒くて凍える夜も、熱中症になりかけて意識が朦朧としたことも、東京に来てからは1度もなかった。
高見が手を出すようになったのは、真冬が中学校を卒業した夜だった。
3月だというのに、高見に連れ出された日と同じぐらい、酷く寒い夜だった。
卒業式から帰ってきた真冬のことを高見は煙草をふかしながら部屋で待っていた。
洗面所で手を洗い終えた真冬を後ろから抱え上げてそのままベッドに放り投げると、高見はネクタイを緩めながら覆いかぶさった。
突然のことに真冬は驚きはしたものの、抵抗する素振りは一切見せなかった。
いずれ、こうなることは分かっていたから。
寧ろもっと早くこうなっていてもおかしくない、と理解していたから。
未熟な身体で大人の男を受け入れるのは痛いだろうに泣くことも叫ぶこともせず、真冬はただ唇を噛み締めて、虚ろな目で天井を見上げながら行為が終わるのを静かに待っていた。
高見は変わらない真冬の表情を見て、小さく「くそ」と呟くと腰を大きく打ち付けた。
行為を終えて身支度を整えた高見は、ベッドに寝転がったまま背を向ける真冬の髪に手を伸ばしかけ、一瞬逡巡した後その手を握りこぶしに変えると、そのまま触れることなく部屋を出ていった。
赤と白の混じったものがシーツを濡らしていた。