新しい世界が広がって、5年が経った。
真冬はこの冬で17歳になる。

近くにネオン街のある、治安があまりよくない立地に建てられたコンクリート打ちっぱなしのマンション。

その3階にある6畳ほどの小さな角部屋。
他の住人と顔を合わせたことはなくて、隣の部屋は真冬が越してきてからずっと空き室のようだ。

高見の指示通り都内を転々としていたが、ここ1年近くはその角部屋が真冬のお城だった。

真っ白な遮光カーテン、シンプルなデザインのベッド、硝子のテーブル、白のソファ、少しの食器。

たったそれだけが置かれた、生活感などまるでない無機質な部屋。
部屋に唯一ある窓はすりガラスで、外が見えないようになっている。

真冬はたまにベランダに出て、マンションの周辺をうろついては空腹で鳴く猫のために食パンの欠片を落としてやるのが好きだった。

両親と兄が今どうしているのかは知らない。
きっと高見に聞けば教えてくれるのだろうが、答えを知ったところでどうすることもできないし、彼らに対してもう何も感じなくなってしまっていた。

そんなことを考えるよりも猫に餌をやることの方が、真冬にとってはよっぽど有意義なことだった。

「(今日は、機嫌がよかったらいいな)」

真っ白なシーツの海を泳ぐ。
胸のあたりで切りそろえられた黒髪がシーツの上に広がる。

先週、長い髪が邪魔だと話したら、意外と器用なスキンヘッドが丁寧に切ってくれた。
車に乗ったあのときから、スキンヘッドも刺青も真冬に良くしてくれている。

真冬はごろりと仰向けになり、腕で顔を覆った。
あと1時間もすれば、この部屋に高見がやってくるだろう。