「娘もいたか」
椅子に座り、白い煙を吐く高見と目が合う。
これが3度目。
だけど、なんの隔たりもないまま見つめ合ったのはこれが初めて。
「この子じゃ、駄目ですか」
「…………」
「…………」
「……はぁ、いいだろう」
「高見さん、いいんすか。こんなちんちくりんで」
先程までとは打って変わって、はっきりと物言う母親に高見は煙草を咥えたまま母親に視線を移し、眉を顰めた。
そして長い逡巡のあと、再び白い煙を吐き出すと、真冬を一瞥した高見は母親の提案に了承した。
スキンヘッドと刺青は高見の返答に慌てるが、それも意に介さず、もうここに用はないと言わんばかりに立ち上がる。
すれ違いざま、高見は母親から奪い去るように、真冬の細い色白の腕を掴んでそのまま一緒に外に出た。
「お前、名前は?」
「……真冬」
「何か持っていくもんはないか」
「大丈夫、です」
もうここには戻って来れないぞ、そう言い聞かされても真冬の答えは変わらなかった。
思い出も悲しみも何もかもすべて、この場所に置いていくと決めたから。