それは、真冬にとって死の宣告だった。
「真冬、お願い。
お母さんたちを助けると思って……
ーーあの人たちの所へ行ってくれる?」
真冬は少し笑った。滑稽だった。
必死に自分の子どもにすがりついて、どうにかして自分だけでも助かろうとしている母親が、ひどく滑稽に見えた。
自分が売られるんだということを、なんとなく1週間前のあの日から理解していた。
けれど、そんなこと起こらなかったらいいなって、少し淡い期待を抱いていた自分が馬鹿みたいに思えた。
心はズキズキと傷んでいて、本当は泣き叫びながらこれまでの不平不満をぶちまけて、こんな家からとっとと出ていってやりたかった。
けれど、真冬は笑った。
そしたら、プツンと真冬の中で何かの糸が切れる音がして。
どうやって泣けばいいのか、涙の流し方さえ忘れてしまった。
ぎこちない真冬の笑顔を見た母親は「そう、助かるわ、ありがとう」と勝手に都合よく解釈して、真冬の背中を押し、リビングへと連れていった。
リビングにやってきた俯いたままの娘を見ても、父親は何も反応しなかった。
兄がいたら怒ってくれただろうか。
そんなことを考えるのも虚しくなって、真冬はふと顔を上げた。