「……」
東向きの部屋のカーテンを開けると、朝日がツンとまぶたに直撃して、反射的に顔を背けた。
加賀山雪乃(かがやまゆきの)。
1993年5月24日生まれ。
大学を卒業して四年。
これまで、就職活動に失敗した私は、何度もいろんな会社に履歴書を送ったけれど、どの会社にも合格しなかった。

それも、仕方がない。
だって最初から諦めていたんだもの。
自分なんかが、普通に就職できるはずがないって。
部屋はとっちらかっていて、大学での課題を提出するのも、提出先がどこだかわからないという理由で遅れることがあった。先生に直接渡すのならまだしも、「研究室のポストに入れておいてください」なんて言われると、大学構内で迷いに迷って、「もう、いいや」と投げやりになった。
ならば友達に頼めばいいだろうと思うかもしれないが、あいにく、地元を離れての慣れない大学生活において、仲の良い友達が一人もできなかった。
授業に出ればなんとなく会話をする友達はいるけれど、課題の提出を代わりにしてくれるような、親密な友達がいなかったという意味だ。

そんなわけで、大学を卒業し、結局1年はまともに就職ができず、1年間はコールセンターでアルバイトとして働いた。
コールセンターでは、電話の相手によってまあ、言ってしまえば苦言を吐く人も多く、最初はウンウン唸るほどストレスが溜まった。けれど、慣れてくれば良い意味で聞き流せるようにもなって、気がつけば淡々と「かしこまりました」「申し訳ございません」が口をついて出るようになっていた。

自分には何もできないんだと思い込んでいた時期だったので、アルバイトとはいえ、働ける仕事があってひとまず気分が落ち着く。

ストレスは溜まるけれど、働けないよりましだ。

半年ほど働いてようやく心が前向きになり始めたとき、コールセンターで仕事を教えてくれていたアルバイトの先輩、常岡さんに肩をトントンと叩いた。
「あのさ、加賀山さん」
「はい」
4時間の勤務後、1時間休憩に入ろうかとしていた時だった。
「この書類、間違ってるんだけど」
「……すみません」
「この前も書類間違えてたよね。難しいなら他の人にやってもらうから、そう言ってね。ミスをされるとまたやり直さなくちゃいけなくなるでしょう。それなら他の人に代わってもらう方がいいの」
「申し訳ありません」
バサバサと、常岡さんが書類を持つ手を動かしている音が、やけに大きく聞こえた。
私が先輩に注意を受けている間も、事務所では電話の呼び出し音が鳴り止まない。
音。
耳に、きんきんと響く音。
私はこの音に、いつしか耐えられなくなっていた。